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生き抜く

シスター 山本 久美子

今日の心の糧イメージ

 特別支援学校で働いていた時、クラスの児童たちと、アゲハ蝶の成長過程を観察しました。蝶のように、全く違う姿に形を変える成長過程を「完全変態」と言うそうです。卵から幼虫、そしてさなぎから成虫の蝶になるプロセスは、その変化と成長ぶりがよくわかり、子どもたちも興味を持って観察することができました。

 ある児童が自宅の庭の山椒の葉に卵を見つけ、皆と一緒に育てようと学校に持って来てくれたことがきっかけでした。私自身、最初は一ミリ程度だった小さな幼虫が少しずつ大きくなっていくのが楽しみになり、エサの新鮮な葉っぱを切らさないようにせっせと探したものです。同じ木の葉でないと食べない場合もあるらしく、葉っぱがなくなっているのを見つけてホッとし、小さいのによく食べる幼虫に感心しました。

 気が付くと、目に見えないほどの小さないのちの成長や変化に感動し、喜びを感じている自分がありました。やがて、幼虫の体の色が緑になり、さなぎになり、約10日後には、さなぎが割れて蝶が孵化しました。そして、成虫になったアゲハ蝶は、美しい羽を広げ、クラスの窓から飛んでいきました。

 「蝶になったら、自然に帰してあげよう」と決めた時、子どもたちは嬉しいような淋しいような表情を見せていました。成虫となった蝶は、約2週間でその一生を生き抜くと聞きます。幼虫からは想像もできない姿となる蝶ですが、そのプロセスでは、私たちにはわからないような体の痛みなどもあるのでしょうか。

 蝶は、キリスト教で「復活」のシンボルにも使われます。

 一度さなぎとなって死んだようになり、蝶の姿で羽を広げる姿は、新しい「いのち」を私たちに思い起こさせるからです。