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人との絆

湯川 千恵子

今日の心の糧イメージ

 「人との絆」と聞いて、昔参加した心理学のワークショップを思い出した。

 小さな輪を書き、その中に最も絆の深い人の名を書く。輪の外側には出会ったことで人生が拓かれた恩人の名を次々に書いた。友人知人の名も書いた。他者との絆の深さを自覚する作業だった。

 今、懐かしく思い出しながら、最も深い絆の人は夫なのに、何故中心の輪に書かなかったのだろう。それは多分夫と一心同体になっていたからかな...と面白く気がついた。

 私には親子の絆が最強のように思われる。子育て中の親は動物的本能で、強敵も恐れず我が子を守る。

 成長した子どもはやがて巣立ち、伴侶を求め、親との絆は中心核から切れるようだ。しかし一般的に考えると夫婦の絆は生活を共にする内に互いの人格の中枢が重なって一つになって行く様に思われる。

 その絆は、一方の死によっても切れない。

 夫婦の形態は千差万別。生まれも習慣も全てが異なる二人が共に暮らすのだから日々のドラマも多種多様。子どもを授かれば、親になった二人は子どもを育て、自らも育てられ、社会生活も豊かになる。

 私も家族に育てられた。信仰も夫に導かれた。

 夫は旧満州生まれ、16歳で敗戦を経験。価値観が逆転し、魂の暗闇を経験した。長女の幼稚園でイエス様に出合い、その光によって普遍の愛と真理の道を悟り、洗礼を望んだ。最初は反対した私も夫の純粋な情熱に心開かれ、二人の幼児を連れて一家で受洗した。その恵みは計り知れない。

 89歳の私が今味わっている魂の安らぎも、死の向こうに、神のいのちと共に永遠に生きる幸せがあることを、夫の死を通して垣間見たからだ。

 今できることを感謝して祈りつつ精一杯生きようと思う。