私の実家の家訓は、「独立自尊」でした。これは慶応義塾大学を創立した福澤諭吉先生の言葉ですが、そういうことは子どもの私にはわかりませんでした。しかし、子ども心にもこの言葉に妙に惹かれていたのは10人兄弟の大家族の末っ子として生まれたが、両親が早く亡くなっていた上に、兄達が8人もいたせいか、深い孤独を感じていたからではなかったかと思います。これが契機で信仰をもち、熱心に祈りもしましたが、安心を得ることはできませんでした。
ではいつ安心立命ができたかというと、高校卒業後、故郷を離れ、信州で活躍していた兄の家に住んでいたときでした。
ふとしたきっかけで教会に通い、そこで同年代の男女青年たちと出会い、信仰を語り合ったり、一緒に教会の活動をしたりしているうちに、友情が芽生え、人間同士の絆ができたからではなかったかと思います。
個々人は、人として尊く、また種々の才能に恵まれた有能な存在なのですが、他者との間に友情や愛の絆がないと、それが有効に働かないのです。こうした人間法則が分からないと、折角の宝物に恵まれていてもそれに気づかず、結局、宝の持ち腐れに終わってしまいかねません。
私たちは、ふだん人々のために良いことをしていると思い勝ちですが、実際は、人びととの絆のなかで、能力を発揮しているのです。そのことに早く気づき、他の人びとに対する感謝の念が湧いてくるときに、深い愛情に満たされた喜びを体験するでしょう。これが本当の幸せでなくて何が幸せでしょうか。人は支え合って、本当の人間になるのです。