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人との絆

林 尚志 神父

今日の心の糧イメージ

 もう、13年も前の事になってしまいました。東北の地震津波災害の時、仙台でのことです。建造物被害が激しかった中で、墓地も墓石が倒れ大変でした。遠方に知人から、市内のお墓がどうなっているか、見て知らせて欲しいと頼まれ、案内を頼み、墓地へ行ってみました。

 墓地は被害甚大で、お墓の平安が壊れていました。

 頼まれた家族の墓地と思われる墓標を見出して、墓石の崩れなどの写真を撮り、被害状態を報告して、頼まれ事を果たしてほっとしました。更に案内して下さった方が、ご自分の家のお墓はどうなっているかと行きますと、幸い無傷で無事でした。

 私はその方の家の名前の墓標を探したのですが、墓標には一文字、「絆」と刻まれていました。お墓には最近帰天された「夫のお骨が置かれています」と言われました。

 墓標「絆」の意味を訊ねますと、その方は津波震災前から、街の路上生活の人々、ホームレスの方々の世話を為さっていて、災害でさらに厳しい状況に追い込まれている人々のいのちの繋ぎの為に、それこそ全力を注いでおられたと。そして、その方々がこの世の旅を終えた時、それ迄の路上生活ゆえに、納めるお墓が無いという現実に再々ぶつかるそうです。実の身内もお骨の受け取りを拒むことがあるとのこと。

 そこで、炊き出しや寝場所など寝食に関わった人々を、「絆」の下に、共に憩う場所として「絆」の墓標の場を提供したとのことでした。

 母親の胎内に生きる事を始めた命、臍の緒を切られて、その命は生きる場を常に求めます。お互いに受け入れ合う場を持ちたいですね。

 人生の喜びも悲しみも楽しさも淋しさも受け入れ、受け入れてもらえる結びつき・関係性が「絆」なのですね。