昨年は物価が高騰するなど、私の家庭は経済的に厳しい1年でした。私には執筆などを主とした収入しかないため、妻にも長年苦労をかけていますが、特に困窮した年でした。そんな中、私たちの暮らしを案じる親しい方々から、折に触れて郵便物が送られてきました。ダンボールを開けると数々の食料品が入っており、皆さんの真心に言葉では尽くせぬほど助けていただきました。
さて、東京都内の「町田市民文学館ことばらんど」では、昨年秋から冬の間『生誕百年 遠藤周作展 ミライを灯すことば』が開催されました。この文学館は遠藤氏に縁のある場で、私は遠藤氏の展覧会が催されるたびに伺っています。
今回の展示は生前に未発表だった小説『影に対して』から始まり、過去の作品についての展示がありました。
再現された書斎があり、館内には、母・郁さんの歌う聖歌が優しく流れ、まるで遠藤氏が居るような雰囲気に包まれていました。経済的にひっ迫した日々に苦しむ中での見学は、いつもとは異なる想いがあり、胸に迫るものを感じながら、私は要点をメモしました。
「作家は迷いに迷っている人間なんです。暗闇の中で迷いながら、手探りで少しずつでも人生の謎に迫っていきたいと、小説を書いているのです」という遠藤氏の言葉がありました。また、女手一つで遠藤氏を育てた郁さんの「アスファルトの道は安全だから誰でも歩きます。でも後ろを振り返れば、その道に足跡は残っていない。海の砂浜は歩きにくいが、足跡が一つ一つ残っている。そんな人生を母さんは選びました」という言葉を目にしました。その時、作家の生涯を貫いた遠藤氏の想いを感じ、私自身も「詩人として人生を生ききる」という勇気が湧いてきたのでした。