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旅立ち

林 尚志 神父

今日の心の糧イメージ

 「氷雨降る泥濘(ぬかるみ)の中から 灼熱の太陽をつかめ」

 10代の終りの頃、友人からの年賀状の返事でした。名の知れた作家になり、少し早く亡くなった高校の同級生の言葉です。

 当時、私はそれなりに挫折して、落ち込みの底から訴える便りへの、激励する友からの言葉だったのです。70年経っても忘れず、いつも生かしてくれる心のこもった言葉です。

 友人は後ほど自分の作品の中で、当時の自分はそんな励ましの言葉が言えるような人生の状況ではなかったと書いています。

 愛のこもったことばは、言った本人の意図を超えて深まり広がります。

 高校時代私は山岳部に所属して、山登りに心をときめかしていました。

 ある山の中での昼食の時、おにぎりの中の梅干しの種を、ほい、と口から地面に捨てました。すると山登りの先輩が、それを拾い紙に包みポケットに入れるようにと言いました。

 その後目的の頂上に立ったのですが濃い霧に囲まれ下山路が分からず右往左往し出した時、先輩が一先ず座ろうと、岩の上に腰を下ろしました。早く行動しないと日没になり下山が困難になる。そんな心の動きを察したかのよう、先輩は、昼飯の時の梅干しの種を出してしゃぶるように言います。舌が痛くなり、種を噛んで芯を食べようとすると。噛むなと言われてしゃぶり続けました。

 と、なんと。風が吹き出し、霧が動き流れてその切れ目から傍の山が見えだしたのです。早速その山肌の崩れ跡を地図で確認して、現在地点を判断して下山方向の踏み跡を選び、無事山を下りました。

 新しい出発・旅立ちはいつか迷い・挫折・障害などの霧に囲まれることもあります。そのような時、友の、先輩の、そして親等のことば、神様の愛の聖書のことばを、梅干の種とし頂きたいですね。