今から60年以上前のことです。横浜港の大さん橋には、大型客船、クイーンメリー号の船出を見送る人々が詰めかけ大混雑でした。
私はまだ中学1年生。担任の先生がフルブライト奨学金での留学生として渡米なさることになり、クラスの有志が申し合わせて、先生のお見送りの為横浜へ出向いたのです。船の甲板にはこれからアメリカへ旅立つ人々がずらりと並んで地上の賑わいを見ています。
私たちは一か所に固まって先生へのメッセージを描いた旗を高く頭上にかかげ、口々に先生の名前を叫びました。時間が来て船出の汽笛が鳴り響き、私たちは手に握りしめていた紙テープを渾身の力を込めて甲板めがけて放り投げました。
いくつかは甲板の人にしっかりと受け止められました。色とりどりのテープが風になびき人々は必死に手を振り叫びました。
「お元気で~!」「これまでありがとう」「先生頑張って」「お気を付けて~!」次々発せられる言葉は風に乗って先生の耳に届いたようで、先生も必死にテープを拾い集め大きく手を振って叫ばれました。「ありがとう!頑張ってくるぞー」船は静かに岸壁を離れます。紙テープが風にあおられ横になびき絡み合いやがてちぎれて波間に流れ消えていきました。
文字通り旅に出ることが旅立ちなのですが、一方で人生の中で節目を迎え次なる世界を目指すことをも「旅立ち」といいます。先生はこの留学を人生の転機となさいました。横浜港での光景は両方の意味を感じさせ、私には忘れ得ぬ想い出の光景です。
未知の世界に一歩を踏み出す感動は、子供の頃は普通の旅行でも体験出来ました。
人生の旅立ちも子供のような冒険心と偏見のない素直さが必要です。