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扉を開ける

片柳 弘史 神父

今日の心の糧イメージ

 最近、おもしろい言葉を聞いた。「これからが、これまでをつくる」というのだ。これは普通、逆だろう。普通は、これまでの積み重ねが未来を決めるという意味で、「これまでが、これからをつくる」と考える。「これから」、つまり未来が、「これまで」、つまり過去を変えることなどできるのだろうか。

 「これからが、これまでをつくる」という方の説明はこうだ。たとえば、仕事で失敗したとしよう。失敗したという事実を消すことはできないが、失敗の意味は、これからの生き方次第で変えることができる。失敗から何も学ばなければ、失敗は失敗のままだろう。しかし、失敗から何かを学ぶことができれば、それは成長のための糧となり、人生の宝にさえなる。その意味で、「これからが、これまでをつくる」というのも、「これまでが、これからをつくる」というのと同じくらい正しいのだ。

 この説明を聞いて、わたしはなるほどと思った。確かに、過去は変えられないが、過去の意味は、これからどう生きるかで変えることができるのだ。絵描きの先生から、こんな話をきいたこともある。「絵を描いているとき、間違ったと思っても、その絵を丸めて捨てない方がいいですよ。そのまま描き続けることで、素晴らしい絵ができあがることもありますから」というのだ。

 失敗と思ったことさえも、その絵の深い味わいの一つになると聞いて、わたしはとても感動した。人生も、それと同じかもしれないと思ったからだ。失敗しても、あきらめる必要はない。これからの生き方次第で、その意味は変えることができるし、その失敗さえ、人生という絵の大切な一部にすることができる。そのことを胸に刻みながら、新しい一年を始めたい。