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親近感

三宮 麻由子

今日の心の糧イメージ

 新年は、俳句作りで大忙しになります。暮れから正月は季語の宝庫だからです。特に、色々なものに「初」を付けると、普通の言葉が新年の季語に早変わりするのが楽しいのです。

 空は初空、日の出は初日の出。同じように、初旅、初買い物、初転び、初喧嘩など、ちょっと変わったものもあります。

 新年の季語の中で私が一番好きなのが、初雀です。雀は季節を問わず見られるので季語ではないのですが、「初」が付けば新年、「子雀」なら春と、季節の特徴と組み合わせて俳句に詠まれます。

 慌しかった師走も、押し詰まった暮れの日々も、前日の大晦日も、毎朝変わらず賑やかに鳴き交わしていた雀たちが、元旦に鳴くと新年の装いとなり、「初雀」という特別な存在になるのです。でも、人間でいえばおしゃれな着物姿といった一種の距離感はなく、むしろ雀たちへの親しみはひとしおになります。

「新年おめでとう。一緒に新しい年を迎えられたね。今年も色々乗り越えていこうね」

 チュンチュン、チリチリとおしゃべりしている雀たちを驚かさないように、心の中で話しかけていると、柔らかく温かな初日が頬に届いてきます。昨日もきょうも、雀たちは賑やかに鳴き合いながら、真剣に餌を探し、一日を生きています。彼らに寝正月はないのです。その愛らしい声に出会うと、私の心は軽くなり、「今年もがんばろう」と思うことができるのです。

 元日には毎年、「一年日記」と名付けている特別な日記を書きます。前の年と新しい年への思いを綴るのです。後で読み返すことはまずないけれど、書く作業が心を新たにしてくれるからです。今年が幸多き一年となりますように、と祈りながら。

 そして実は、雀たちもそう思っているのかも。