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捧げる

堀 妙子

今日の心の糧イメージ

 「神さま、もうこれ以上どうすればいいのでしょうか」と問いたくなる時に、そんなことってあるのという話をしたいと思う。

 それはあるベトナム人の家族と親戚がいっしょに船で航海していた時の話だ。船が故障して動かなくなった。船長のお父さんがもう1台積んでいたエンジンと交換し、ふたたび船は動き出した。海はどこまでも青く、船は白い航跡を残して進んだ。時は過ぎ、また船のエンジンが故障し、止まってしまった。エンジンは何をしても直らなかった。船は海上を漂流し続けた。

 ついにお父さんは皆に告げた。「もう水も食料もない。わたしたちはもう死を待つだけだ。最後に神さまにお祈りをして、そして死んでいこう」。お父さんの祈りに合わせて皆で祈った。しばらくすると、不思議なことに船が動き出した。風があるわけでもない。その船に乗っていた少年は船から身を乗り出して船底のほうを見た。なんと黒い大きな魚の何頭かが船を動かしていたのだ。少年はイルカのようだったと証言する。船に乗っていた家族や親戚が驚いていると、遠くのほうに大きな船が見えてきた。イギリスの船だった。その船に全員救助されたのだ。家族は日本に、親戚はイギリスに渡った。

 少年は成長し、やがて日本社会の海を航海し、青春を謳歌していた。しかし、その青年の船のエンジンはまた止まってしまった。そしてしばらくするとその船は動き出した。青年が見るとまた魚が動かしていた。魚はギリシャ語でイクトュス...、「イエス、キリスト、神の、子、救世主」の頭文字なのだ。

 青年はイエス・キリストに動かされ、ついに司祭となった。なんとキリストのミサを捧げる魚となった。

 毎日がクリスマスなのである。