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導かれて

服部 剛

今日の心の糧イメージ

 ある日のこと、韓国の詩人Sさんから電話をいただき、久しぶりに話しました。

 「オ元気デスカ? 私ハ今、日本ニ居マス、コレカラ石川県金沢ニ行キマス」「それならば、ぜひ兼六園の広い庭を歩いたり、ひがし茶屋街で抹茶を飲んではいかがですか。近江町市場の魚も美味しいですよ」 「アリガトウ、参考ニシマス、今年ノ釜山デノ詩人交流会デハ、会エルコトヲ楽シミニシテイマス」

 電話を終えると、妻が「韓国の詩人の方と交流があるのは素晴らしいわね」と微笑みました。私もSさんが思い出してくれたことに、じんわり...と胸が温かくなりました。

 Sさんとはコロナ禍になる前年、長野県軽井沢で韓国と日本の詩人交流会があり、親睦を深めました。

 その時、私が発表したテーマは亡き日本の詩人Mさんについてでした。Mさんは両国間の戦時中の哀しい歴史を見つめ、韓国の詩人の方々と交流を続け、両国の絆を育んだ詩人でした。

 プロテスタントの牧師でもあったMさんの、〈詩と信仰の次元で語らう時、両国の詩人の間に友情は芽生える〉というメッセージを伝えた後Sさんは挙手をして、「服部サンハ、ドノヨウナ詩ヲ書イテユキタイデスカ?」と質問しました。私は、「人の心に寄り添う、ささやかな灯をともす詩を書いてゆきたいです」と応えると、韓国の詩人の皆さんは静かに頷いてくれました。

 この交流会の翌月、都内の書店でMさんの詩集を見つけました。ページを開くと、奇遇にも私が発表した時に引用した詩が目に飛び込んで、思わず息を吞みました。

 韓国の詩人の皆さんとの御縁に感謝して、私は韓国での詩人交流会に参加する予定です。両国の詩人の間に友好の芽が育まれることを願い、釜山への旅に出たいと思います。