30数年前、「心はみえるんよ」というノンフィクションを書き、刊行していただいた。
初老の全盲の女性マッサージ師の先生と知的障害を持つ年下女性との同居生活の記録である。
何年にもわたって取材し、おふたりとの信頼関係が成り立った上での出版であった。
やがて、1986年に読売テレビで「ふたりはひとり」というタイトルでドラマ化され、放送は高視聴率となったようだ。
障害者同士のドラマなので、とにかく制作者側も気をつかい、そのため、原作者である私はドラマの収録に立ち会った。
全盲のマッサージ師のM先生は上品で聡明な女性であった。その上、厳しさの中にもやさしさが満ちあふれ、知的障害を持ったAちゃんを、社会に通用する人間になるよう教育した。
先生の口癖は「わたしとAちゃんはふたりで一人前です」ということであった。先生の見えない所をAちゃんに補ってもらい、Aちゃんの足りない所を先生が補った。
「活かしあう」というテーマに相応しいふたりであった。
町の片隅の家の中で、お互い協力しあいながら、ふたりして自立した生活をしているのだった。
私は最初、血の繋がりのあるふたりかなと思っていたが、実は他人であった。
先生の近くの工場で下働きとして働いていたが、とても役に立たず、もうこなくていいと断っても、翌日にはまたニコニコしてやって来た。
その繰り返しを見ていた近所のおばさんが、M先生のところへ相談にやって来た。目の不自由な先生の目となって働いてくれるのではないかと思ったのである。
そのおばさんの発想は的を射ていて、実に30数年間、先生が亡くなるまで、「ふたりはひとり」として暮らしたのだった。
*お詫び* お話の最後の文章
~~そのおばさんの発想は的を射ていて、実に30数年間、・・・~~の
的を射ていて は、当初、的を得ていて と誤記されていて、そのまま録音してしまいました。
当方のチェックミスですが、音声は「得ていて」のままで録音しています。
お聞き苦しくて申し訳ございません。