ふれあいというテーマを考えた時、まっさきに思い出す人がいる。
もう天国へ旅立たれたシスターNである。
初めてお会いしたのは、もう30年近く前。
その時、シスターNは、御子さま(イエスさま)をマリアさまに直接抱かせていただいたことをおしゃべりされた。
シスターNが小学生の時のことである。五島列島の小さな教会でのこと。
仏教徒の家に生まれたシスターNはその日、海水浴のあと、教会へ寄ろうと誘われて、初めて教会の中に入った。
誘ってくれたカトリックの友人に十字を切るのを教わり、ぎこちない手つきで十字を切った。
そのあと、高い檀の上にいらっしゃる、イエスさまを抱かれたマリアさまを見つめていると、マリアさまと目が合った。
マリアさまはやさしくほほえみかけられると、ひょいと、その高い檀から降りて、シスターNの傍まで歩いて来られた。
何事かと思って驚いていると、マリアさまに抱かれていたイエスさまを、そっとシスターNに手渡された。
シスターNはすぐに抱きとめた。そのお体はあたたかでやわらかだった。
驚きながらも何物にもかえられない至福の時を過ごしていると、またマリアさまがやって来られて、イエスさまを抱きとられた。
そして、何事もなかったかのように、元の高い檀の上に戻られたという。
その時間が何分だったか、何秒だったか、記憶にはないが、確かにシスターNは御子さまを抱かせていただいた感触は一生残った。
シスターNは長じて、親や親類の大反対を押し切ってカトリックになり、そしてシスターになり、清らかな生活を送られた。