神様は"ひらめきの種"をひそかに蒔いてくださる。
30年以上前、私は出版社の編集部で働くことになりました。そこで絵本作家との出会いがあり、その時にはわからなかったのですが、のちに私にとって最後の使命のひとつとなる種が私の心に蒔かれたのです。
17年の月日が流れ、母が病気になり出版社をやめることになりました。母を看病している頃、編集者時代に出会った絵本作家「やなぎや けいこ」さんが書いた『はるかなる黄金帝国』を読んだのです。そのあとがきにはこうありました。
「『インカのバラ』と呼ばれる石と私が初めて出会ったのは、もう、ずいぶん前のことです。桃色の地肌に、白い線が不規則な縞のように浮いて見える石でした。幸せを運ぶという言い伝えを持つその石の、ふしぎな美しさにふれたとき、私の心のどこかに、この物語の小さい小さい芽が、顔をのぞかせたのかもしれません」と。
私はこの作家に手紙を送り「この、インカ帝国の物語が大好き!」という気持ちを伝えました。するとなんと、あの「インカのバラの石」が送られてきたのです。
ちょうどその頃、私は東京を離れることになり、新しい土地での仕事と生活が待っていたはずだったのですが、突然仕事が中止に...。もう後戻りはできず、そのまま新しい土地に行き、塾の講師などをしながら生活していました。
インカのバラの石をきっかけに、絵本作家やなぎやさんとの交流は続き、彼女は、ご自分の全著作と南米で集めた民話や絵本をすべて私に寄贈してくださることになりました。
"ひらめきの種"は知らないうちに蒔かれて、神様は本人が気づくまで待っていてくださるのです。
私は特に南米の青少年に幸せを運ぶ塾を開くことにしたのです。