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ふれあい

崔 友本枝

今日の心の糧イメージ

 母が天国に帰る前の5ヶ月間、私は毎月郷里に帰りました。会えない月も多かったのですが、病院に必要な物を届けることは出来たのです。

 手術を終えて退院し、自由な時間が与えられたとき、母は希望に満ちていました。妹は子供や孫を呼んで楽しい時間を計画しましたが、私は母が辛い時期に一緒に過ごす方がいいように思い、その時は帰りませんでした。

 一ヶ月後、体力が急に落ちてきたことが心配で、私は母の望むことをして数日一緒に過ごしました。三日目には病院に点滴を頼みましたが、身支度をするだけで精一杯で、母は化粧をしていませんでした。

 おしゃれが好きで、いつもきれいにしていたからきっと気になっているだろうと思い、「お化粧してあげる」と言うと、「バッグに入ってる口紅ね、いま一番気に入ってる色なのよ」と言って喜びました。

 ファンデーションを塗り、眉を描いて口紅をさすと、母は満足そうにしています。

 でも、点滴がすむと私はすぐに出なければなりません。飛行機の時間が迫っていたのです。「ママ、私、もう行かなくちゃ。ごめんね。タクシーに乗って帰ってね」と言うと元気な時と同じように、ニコッと華やかな笑顔を見せてくれました。悲しい顔をすると思っていた私は救われました。

 母も教員で、幼い私たちを残し、早朝に出て行かなければならない毎日でした。「引き返して、ちっちゃいあなたたちを思いきり抱きしめてあげたかった」と言っていたことがあります。苦しみや切なさに頭を垂れそうになる日も顔をあげ、前に進んできた人でした。

 「わかってるよ、行っておいで」。そんな声が聞こえそうなほど心がふれあったのを感じました。