あれは高校生の頃だったでしょうか、時期はあまり覚えていないのです。宝塚の売布にある御受難修道会という修道院に入りたいと言う決心を固めて、面接に訪れたときです。
御受難修道会の神父様も喜んでくださり、是非昼食を一緒にということでした。私も受け入れられたと思い、喜んで昼食を共にしたのです。食事といえば、私は小学生だったとき、肉嫌いになっていました。すじ肉が喉に引っかかり、吐き出すことも出来ず、飲み込むことも出来ない苦しみを味わいました。それからは、かみ切る肉は吐き気がし、挽肉のみを食べるようになったのです。
さて、「今日はごちそうです」と食堂に入ると、大皿が出てきました。案の定、そこにはビッグサイズのトンカツが並んでいました。私は、どうしようかと考えあぐねました。
風の噂で、修道院では出されたものをおいしく食べないとその修道院に向いていないと聞いていたからです。
それで「今日はちょっとお腹の調子が悪いので、半分いただきます」と、大きなトンカツを三分の一に切って、自分の皿に取り分けました。それからが大変です。その三分の一のトンカツを、今度は細かく切り刻み、少しずつ飲み込む作業に入りました。
周りの神父様方は、変な食べ方をする高校生だと思ったことでしょう。私の方はといえば、食べられないことをいかに悟られないかと、にこやかに談笑に加わろうと無理をしました。
修道者になることを「召し出し」と言います。それを、別の字で、食べる方の「飯」出しという人もいます。そこでおいしく食べることの出来る人は、その場所に向いていると言うことなのですが、今では慣れて、正直に「私は肉が食べられません」と言えるようになったのです。