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生きがい

古橋 昌尚

今日の心の糧イメージ

 「自分には生きがいがありません」。学生に問うとよくそのような答えが返ってきます。生きがいが見つからない、そう呼べるものが見あたらない。意識して考えたこともないし、すぐに浮かんでもこないと。

 生きる上で張りを与えてくれるものはありますか、と訊いてみる。それならばある、自分には幾つもの生きがいがあるという者も現われます。日常の些細なことで生活に張りを与えてくれる、生き生きとさせてくれる、日々の小さな楽しみや喜び、そうしたことなら自分にもあると。そんな小さな日常の何気ないことでも生きがいと呼んでいいのだと気づきます。

 生きがいという言葉は、他の国では当てはまるものがないとよく言われます。生きる理由や大義、存在の意義などといった大仰なこととも違うニュアンスを含んでいる。むしろ日常の小さな、具体的でまた個人的なもの、例えばペットの世話、友だちと話す、推しの活動、日々の散歩、音楽を味わう、これらも生きがいの名に値する。

 生きがいを意識しなくても、人は生きていけますが、意識することで張りや喜びを与えられることはあります。特に希望を失ったとき、挫折や絶望感に打ちひしがれるとき、人生の困難や苦悩に出会ったとき、また空虚感に見舞われたときには、生きがいほど支えになるものはありません。再び頭を挙げて人生に立ち向かっていく勇気と力を与えてくれます。

 本来的に人は外に開かれて、自己を開き、他者に向けて生きていくものとして創られています。

 生きがいが人を他者に向かわせ、コミュニティーを活かし、社会全体の善や益に結びついていくとき、人は大いなるものとの結びつきを感じ、世界に「よき便り」を伝えるものとなるでしょう。