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生きがい

服部 剛

今日の心の糧イメージ

 小学生の頃、社会科の授業で先生が私たち生徒に将来の仕事について話をしました。当時の私にとっては「両親が職場へ通って働くとはどういうことなのか?」を考えてもよく理解することはできず、教科書を開くと、「働くことは生きがいになります」と書かれていました。

 やがて大人になった私は高齢者の介護施設で働き、長い間にはお年寄りの皆さんとのかけがえのない出会いと数々の思い出があった半面、職場の人間関係等に悩んだ時期もあり、やりがいはいつしか義務になり、心の重荷となっていました。今思えば、介護職での苦労は貴重な経験になったのですが、それは私の人生の通過点であり、自分の長所を本当に生かせる天職ではなかった、と感じています。

 世の人々は生活のために働き、好きなことは趣味に留めるケースが多く、人の生き方は千差万別だと思います。

 私の場合、青年時代から自分の夢を求め続けたことが周囲に伝わり、長年勤めた介護職を辞めてからは、詩人の道を志として歩んでいます。その陰には妻の支えがありますが、以前から私は心の内で妻にも〈自らの生きがいを追い求めてほしい〉と願っていました。

 現在、妻は病院で入院する患者さんの想いを聴かせていただく心のケアの仕事に従事しています。訪ねた病室の患者さんの傍らで耳を傾け、頷き、時には声無き声を聴かせていただいています。病が治るわけではなくとも、患者さんの心の重荷が少し緩和されることがあり、祈りながら共にいさせていただいているのだそうです。

 かつて新聞記者だった妻の生きがいは今も文章を書くことだと思います。いつの日か、患者さんの命に触れさせていただき学んだことが、一冊の本になる日を、私は信じています。