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委ねる

服部 剛

今日の心の糧イメージ

 本好きな人々が集うブックカフェに行った時のことです。カウンター越しに皆の会話に耳を傾けていた店長さんがふと、「傷のない人はいませんよね」と呟きました。店内は静寂となり、皆はそれぞれの想いで頷きました。

 令和の時代も、心を病む人は減ることがありません。その要因の一つには、祖父母と住まない核家族化が進んだり、また結婚しない人や伴侶を亡くした高齢者など、一人暮らしの人が増えたりしていることもあるのかもしれません。もちろん、人それぞれの生き方があり、一人で生きる人生にも豊かな生活があると思います。しかし、近年の家族形態と、人々の心の状態には、いくらかの関係性があるのではないかという気がしています。

 また、パソコンやスマートフォン等の普及が与える影響もあると感じます。確かに便利で必要不可欠なものですが、画面を見る時間が増えて人と人の温もりが伝わりづらい社会になっているのではないでしょうか。もっとも、現状をただ否定するのではなく、いかに人間本来の温かみを回復できるかが大切であり、その知恵を具体的に考える必要があると思います。

 心を込めたメールを送ることもよいですが、時には直接、筆をとり手紙を書くこと、イヤホンでスマホに入れた音楽を聴くばかりでなく、スピーカーでゆったりと音楽を味わうことなど、可能な日々の工夫があるかもしれません。

 私は傾聴の活動をしており、人々の心の悩みや痛みを聴かせていただいています。彼ら彼女らは懸命に自分らしさを模索しながら螺旋のように思いを巡らせ、一歩ずつ進む道を探しています。

 今日も私は誰かの話を静かに聴き終えた後、その人のことを目には見えない神様に委ね、そっと祈るでしょう。