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共存共栄

三宮 麻由子

今日の心の糧イメージ

 一時代前、人混みでぶつかるときには、ふとした弾みが大半でした。

 しかし最近は、スマートフォンを操作する、周りをまったく見ずにおしゃべりするなど、周囲への注意を怠ってぶつかるケースが非常に多くなりました。

 道を譲り合う光景もあるものの、かなりの人が「相手が譲る」と思い込んで歩いていると思わされるぶつかり方をします。「これ、目の見える人のぶつかり方じゃないよね。昔の盲学校で全盲同士がぶつかっていた危険さだよね」と思うこともよくあります。しかも、そうやってまともにぶつかってきた人の中に一定の割合で、相手に注意しろと責める人がいます。私は黄色い点字ブロックを頼りにしていて「ながら歩き」らしき人にぶつかられ、「見えない人が気をつけろ」と怒鳴られる経験を何度となくしています。

 そんなときはいつも、江戸時代の「傘かたげ」のことを思い出します。雨の日に狭い道ですれ違うとき、お互いがちょっとだけ傘を傾けてぶつかるのを避けるのです。点字ブロックの周辺に、この「ちょっと譲る、ちょっと避ける」の穏やかな雰囲気があれば、接触トラブルはぐっと減り、はるかに安全な社会になる気がします。

 共存共栄は、今ふうにいえばウィンウィンですが、100パーセント自分の望みが叶うことはむしろ少ないでしょう。お互いにちょっと譲って、ちょっと嬉しい結果を出す、これが社会生活におけるウィンウィンの本質ではないでしょうか。

 イエスの時代には通勤ラッシュもバーゲンセールの争奪戦もなかったわけですが、そんな場面でも「傘かたげ」の精神が実践されたら、イエスの説く隣人愛がより身近になるかもしれません。

 ちょっと譲ることの大切さ、いま一度思い返してみませんか。