共存共栄という考え方は、いつ頃から提唱されていただろうか。自然界においては、植物や動物がお互いを生かし合い、人間社会では、異なる文化を尊重し合って共に栄えることを、本来は意味していたと思う。そして今私たちは、人間を死に至らせる可能性を持つ新型ウイルスと人間の共存、というさらに困難な問題に直面している。
新型コロナウイルスが拡散し始めた初期には、人々は未知のウイルスに「感染させられる」ことを過剰に恐れた。他者が皆、病気を運んで来る敵に見えたので、人々は緊張し、街なかには不穏な空気が満ちた。
だが間もなく、自分も知らぬ間にウイルスを体内に潜ませていて、他者にウイルスを「感染させる」可能性を持つことがわかってきた。敵に囲まれているのではなく、皆が同じ災害に直面しているのだ、と理解するようになってからは、社会の雰囲気も変わり、新しい生活様式が工夫され始めた。
満員電車での通勤の代わりに、自宅や遠隔地からのリモートワーク、学生はリモート授業。飲食店は、配達やお弁当の販売に力を入れる。それらは、自分たちが接触によって他者を害する存在であることが、前提になっている。消毒をし、対人距離を取るのは、自分だけでなく、他者を守る方法でもあった。
人間は顔を突き合わせると、批判し合いたくなるが、背中合わせになると、勇気が出るようである。長い歴史の中で、様々な困難を与えられる度に、人類は何とか乗り越えてきた。今やっと、共存することを学び始め、そして少しずつ善なるものに近づいているようだ。共に生き延びていきたい。まだまだ私たちはその途上なのである。