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安らぎ

岡野 絵里子

今日の心の糧イメージ

 「やすらぎ」という名前のついた商品や施設は、数多くあるようだ。よく眠れる布団セットだったり、温泉宿だったり。身体も心もゆっくり休めたいという現代人の気持ちに応えた、やさしい命名だと思われる。

 だが実は、布団にくるまっている時も、温泉に浸かっている時も、人間の身体の中では、生命を維持するためにいろいろな器官が働き続けているのである。

 そして面白いことに、人間の脳は、休ませられて何もしないでいると、苦痛を感じるのだという。脳科学の研究者によると、思考を巡らせ、活動している時が脳にとって安らぎであり、そうやって、どんな人の脳でも成長していくそうである。

 静かに休むことではなく、活動していることが安らぎだとは、不思議なようだけれど、よく考えてみれば納得できる。元々、働き続けるように作られている脳にとってみれば、働いていることが充足であり、心地よい平和な状態なのだろう。

 聖書では、しばしば「魂の安らぎ」という言葉が語られる。「十字路に立って、眺めよ。古くからの通り道に尋ねてみよ『幸いの道はどこにあるのか』と。その道を歩み、あなたがたの魂に安らぎを見いだせ。」エレミヤ書の6章16節です。

 この「幸いの道」とは、幸いに至る道であり、辿る日々もまた幸いである道に思える。そこでは、休息ではなく持てる能力を発揮して働くことが幸福だろう。

 正しい目的に向かっていると実感すれば、魂は安らぐ。そう教えられている気がする。

 ささやかな日々の仕事を誠実に果たす。私たち自身を浸す静かな喜びに、しばし安らいで、私たちは次の仕事を果たしに行く。