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ときめき

松浦 信行 神父

今日の心の糧イメージ

 私には、中古の楽器を集める趣味があります。うまく奏でることができないのに楽器を眺めては悦に入るのです。

 そんな中、臨時ボーナスが入ったとき、少し高額の中古楽器が目にとまりました。とってもその楽器が魅力的で、買おうか買うまいか一ヶ月近く、くよくよと悩んでいました。

 そんなとき、ある勉強会で、"今こんなことで悩んでいます"と、世間話で披露した途端、ある信者さんから「神父さん、買えるお金があるのなら買った方がいいですよ。後々元気が出ますから」と言われ、買ってしまいました。

 確かに、その後その信者さんが言ったように生活に張りが出て、その楽器を少し奏でてみようという気持ちになり、そのことで私の他の仕事にも活力が広がるようになりました。

 同じ話が、私がよく使う絵本の中にもあります。「ときめきのへや」という題名ですが、何でもない小石に魅せられ、宝物にした主人公が、周りからなぜそんなどうでもよいものを宝物とするのかとわいわい言われ続けます。そうかもしれないと主人公はその小石を捨るのですが、その途端に、やる気をなくしてしまうという話です。

 人間は何かにこだわって生きているのかもしれません。こだわりの対象が違うために、「どうしてそんなたいしたこともないことに」といった反応を起こすことが、人と接していてよくあります。でも何によって生活を豊かにできるのかは、その人の人生、その人の感性、その人の人間観によって違って当然なのでしょう。

 その違いの奥には心の中にピンとくるものがあり、それを人生の中でメリハリをつけ、方向づけていく営みが、生活するということ、そして生きていくということなのかもしれません。