漢字で「時めく」と書けば、その時代に栄える、という意味になるが、平仮名の「ときめく」であれば、興奮や期待で胸がドキドキする、という意味になる。
「ときめく」が、本来の意味に新しいニュアンスを加えられて、注目されたのは、10年ほど前だろうか。不用品を整理する際、その品物に、もう心ときめかないなら捨てる、ときめくなら捨てない、という片づけ術の本が刊行されたのである。すでに断捨離の精神は定着していたけれど役に立つか否かではなく、心がときめくか、ときめかないかという基準が面白かった。
この本は英訳されて、アメリカでもベストセラーになったようだが、「ときめく」は「スパーク ジョイ (spark joy) 」と訳されていた。直訳すると「喜びが閃く」。スパークは火花という意味もあるから、まさに火花が発火するように喜びがはじける感じがする。
アメリカと日本では、住宅の大きさからして、片づけの事情もかなり違うと思われるが、日々の暮らしの中に、心のときめき、閃く喜びを必要としているのは同じであるらしい。そして、豊かに暮らすためにたくさんの品物を買い込み、そして次には、物的な執着を断つためにたくさんの品物を捨てる。そんな面倒な手続きを踏んで、よき生き方を求めているところも、似ているようで微笑ましい。
ときめきは、いつも私たちの中にあるように思う。明るい音楽のように。
新たな仕事を始める時も、ただお気に入りのソファに座っている時も、私たちの胸の中で希望や憧れは音を立てている。それらは私たち自身が生きる音なのだ。