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レジリエンス

崔 友本枝

今日の心の糧イメージ

 私たちは、社会にうまく適応する力があるかどうかという基準で人を評価します。しかし、社会の価値観はよく変わります。物の消費が豊かさの表れだとして「使い捨て」が美徳だった時代もありますが、いまは逆です。たえず変化する時代の価値観に、そのつど適応していたのでは自分の人生を本当に生きたとは言えないのではないでしょうか。

 聖書は何千年も前に書かれた書物ですが、どんな時代にも同じ価値観で私たちに語りかけます。イエスはこう言われます。「わたしについて来たい者は、自分を捨て、自分の十字架を背負って、わたしに従いなさい。自分の命を救いたいと思う者は、それを失うが、わたしのために命を失う者は、それを得る」。(参 マタイ10・38~39)これは、自分の欲求の充足を求めてやまない現代人の考えとは反対なので受け入れがたいものです。しかし、実際にそう生きた人を知ると、私たちは深い感銘を受けます。

 たとえば、大正8年に21歳だった井深八重さんがそうです。彼女は当時、不治の病だったハンセン病者として、神山復生病院に入院していました。病の苦しみと絶望を深く味わった八重さんは、全生涯を神に捧げて患者に尽くす病院長のドルワル神父さまの生き方に胸を打たれていました。

 3年後、なんと、彼女の病は「誤診」だったことが判明しました。八重さんは、病院に残る患者さんのことを思い、看護師の資格を取って再び戻ってきました。生涯をハンセン病者のために尽くすことにしたのです。

 他者に光と希望を投げかけ、相手の喜びを喜ぶ生き方、これが「わたしのために命を失う者は、それを得る」ということなのです。