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レジリエンス

服部 剛

今日の心の糧イメージ

 知的障がいをもつ息子・周について、私が密かに悩んできたことは、コミュニケーションが双方向になりづらいことです。10才を過ぎた現在も言葉を話すことはなく、声をかけても返事はありません。今まで夢の中で周が話す場面を見ては目が覚めて、〈夢だったか...〉とため息をつくことが何度もありました。

 ですが、9才になった頃から、朝、特別支援学校のスクールバスに乗せた後に外から手を振ると、私をしっかり見つめてニコッと笑みを返すことが増えてきました。妻に報告すると、「周は話せなくとも、自分から発信しているのよ」と言います。確かに、最近は自分でテレビのリモコンを持ち、てくてく歩いてきては「パパ、テレビを点けて」と言わんばかりに手渡しをすることも増えました。私も妻も忙しくて息子をかまってあげられない時は、好きなおもちゃを探したり、歌番組を観たりと、自分で楽しみを見つけています。

 また、〈息子にも適応能力があるのでは?〉と思うことがあります。日常生活はほぼ全介助という現状ですが、知的障がいには個人差があり、例えば、あるお子さんは朝、家から外に出る時に落ち着かず、親御さんがバス停に連れてくるのに苦労されています。周に関しては、支援学校やデイサービス等、どの場所にも嫌がることなく、いつも楽しそうになじんでおり、私も安心です。

 一昨年からの新型コロナウイルスのまん延防止による自粛期間では、親子3人、久々に長い時間を共に過ごすことになりました。一緒にいる中で、あらためて周の持つ生きる力を実感することがありました。息子の存在を通して学んだ〈状況に応じて暮らす〉ことを大切に、これからも家族で歩んでいきたいと思います。