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三宮 麻由子

今日の心の糧イメージ

 アメリカの高校に留学していたとき、ホストファミリーのお母さんが感情が高ぶって泣いている私を抱きしめて、こういいました。

 「大丈夫。夜が面倒を見てくれるから」

 英語では、「ナイトがテイクケアしてくれる」と言っていました。泣きたいときは泣いていい、でも忍耐して夜を耐え忍べば、一晩の眠りが気持ちを整理してくれる。お母さんはそう宥めてくれたのでした。

 これがきっかけで、私は一晩眠ることの「効き目」を意識するようになりました。大人になるにつれ、一晩が一週間、一月と長いスパンになり、意識して自分を制御しながらじっと見守ることや、待つことが少しずつできるようになったのです。

 社会に出てから、「日にち薬」(ひにちぐすり)という言葉に出会いました。瀬戸内寂聴さんのツイッターで読んだのです。京都の言葉で、様々な悩みや問題は時間が解決してくれるという意味のようです。

 でもこの言葉は、単に時間の経過を忍耐して待ちましょうという一義的なものにはとどまっていないと、私には思えます。実際、時間は「待つ」ことだけで経過するわけではないからです。

 日にち薬が効いてくるまでの間、私たちは忍耐することもあれば、行動しながら先行きを見極めることもあります。それまで見えていなかった物事の本質が突然分かったり、自己内対話が充実して、自身の中にある深いものに気付けたりします。そうした要素がすべて合わさって、「日にち薬」という「薬」になるのではないでしょうか。

 キリストは、明日のことは思い煩うなと教えられました。これも、日にち薬の使い方の一つでしょう。

 時は、私たちの意識次第で、容赦なく進む存在にも、癒しの妙薬にもなり得るのです。