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無欲無私

シスター 山本 久美子

今日の心の糧イメージ

 石庭で有名な龍安寺のつくばいに、「吾唯知足」という言葉が刻まれています。足ることを知る、十分に与えられている現状に気づくということです。

 人間の欲というものは際限なく、求めれば求めるほどより欲するようになり、どこまでも満たされないところに人間の苦悩もあると思います。どんなに裕福になっても、人間には、どこか満たされない飢え渇きがあるものです。「無欲無私」など、無理難題のように感じます。

 しかし、こういう人間の飽くなき欲望に向き合い、どうにもならない自分の現実を知ることこそが、「無欲無私」という境地への第一歩だと私は思います。なぜなら、私たちは、満たされない欲求、つまり不足や未知のことばかりに惑わされ、心配して、与えられている「今」を意識せずに過ごしていることが多いからです。

 今、生きているという事実、どのような状態であっても、与えられている「いのち」、「存在」、「時間」、「出会い」等を意識する、さらに味わうということが大切なのだと思います。いろいろな雑念やよけいな心配事を脇に置き、「今」、ただ生きていること、与えられていることに心を向けてみると、自分は決して、一人で自分の力で、生きているのではないことに気づかされます。

 「今」、私は、どうして、何のために、誰のために生きているのでしょうか。今日、出会う人々、出来事は、私に何を与えてくれるのでしょうか。今日一日、足ることを知るよう心を研ぎ澄ませて深めることは、自分を真に幸せにし、豊かにしてくれます。きっと、自分に何かを与え、支えてくれる人々に、物事に心を広げ、「無欲無私」な空っぽの自分に導いてくれます。