▲をクリックすると音声で聞こえます。

共生社会

湯川 千恵子

今日の心の糧イメージ

 昨年、NHKテレビの『世界ふれ合い街歩き』という番組を見た。ブリュッセルの街をカメラ片手に歩きながら、出会う人に「コンニチワ!」と声をかけ、街や人の様子を伝えている。「さようなら!」と言うと、みな笑顔で「良い一日を!」と手を振っている。何とも暖かく、楽しそうな街である。

 選挙の宣伝カーがいろんな国の民謡を流している。街の人曰く「ここには170もの国の人が住んでいて、私の家族も5ヶ国のルーツがあります。それで街の人に祖国の音楽を聴かせて喜ばせているのです」。

 なるほど、ここでは国籍や民俗、生活習慣の違いなどは既に突き抜けていて、個の人格や権利が確立している。だから遠回しながら「人を喜ばすのは愛の心に通じ、思いやりある候補者」として支持されるということなのか。流石はヨーロッパの政治・経済の要として中世から幾多の困難を克服して栄えてきた街の、信仰に基くユーモアの叡智だと思った。

 ふと、町の人も大広場・グランパレスの観光客もマスクをしていない事に気づいた。あれ?

 調べると、何と2019年放送のものだった。つまり、コロナ禍直前の平和で自由で寛容なブリュッセルの人々の暮らしぶりの紹介だった。

 友人と自由に会食する喜びすら奪われる、コロナ禍の閉塞した状況とのあまりの違いに愕然とした。

 コロナ禍で世界が激変している。しかし私はこの番組を見て希望の光を得た気がした。世界がどう変わろうと神に平等に、独自に愛されている人間同士、謙虚に尊重し合い、理解して助け合い、赦しあえば、自由に楽しく生きられることを垣間見せてもらった気がしたからだ。

 【神を敬い、隣人を己の如く愛せよ。】キリストの教えは、真に幸せな生き方の道標だと改めて思う。