「星の王子様」の作者、サン・テグジュペリの名言に、「愛するとは、お互いが見つめ合うことではなく、共に同じ方向を見つめること」という言葉があります。時折、結婚式の祝辞にも引用されるようですが、あらゆる人間関係や共同体で「ともに生きる」過程で、心に刻んでおきたい言葉です。
恋愛中の恋人同士なら、お互いに見つめ合うことで喜びや満足感が得られる時期もあると思いますが、長く付き合って、お互いの長短所が見えてくると、私たちは相手の欠点や嫌な面ばかりに目がいき、生理的に無理な状況にさえ陥ることもあります。
「ともに生きる」とは、決してきれいごとでは済まされません。「愛するとはお互いが 見つめ合うことではない」というのは、言い換えると「相手ばかりを見ているなら、愛せなくなる」という現実そのものを語っているのかもしれません。そこで、「同じ方向を見つめる」ということが、他人にうんざりする現実の対処法であり、人間関係を保つ秘訣ということになるのでしょうか。
では、同じ方向とはどういう意味なのでしょう。私には、老夫婦が一緒に美しい夕陽を眺めているような場面が目に浮かんできます。それは、お互いに、もう相手に何も要求することもなく、たとえ要求されたとしても何もできないような境地に達した様子です。
私たち、キリスト者の信仰共同体にとって、「同じ方向」とは、信仰の中心、目標である神に目を向けることです。それは、がむしゃらな方法ではありません。自分ではどうにもならない現実の中で、何か大切なことに気付かされ、自我を手放し、相手も自分自身も神様に委ね、感謝しながら、神の示される道に信頼していくことではないかと思うのです。