日本人女性の宇宙飛行士が、初めてスペースシャトルに搭乗したのは1990年代のことである。宇宙から帰ったその方、向井千秋さんに、小学生がインタビューする短い番組があった。楽しいインタビューだったが、最後に、アナウンサーが向井千秋さんの印象を小学生に聞いた。「会うまでは、『鉄の女』じゃないかと恐かったね。でも実際に会ってみて、どうだった?」すると小学生の男の子は嬉しそうに「うん、普通の人!」と答えたのである。向井さんの顔はさっと曇った。男の子は親しさを込めた一種のほめ言葉として言ったのだが、大人には「取り柄のないつまらない人」と聞こえたのだろう。しかし、向井さんがすぐ気を取り直し、「普通の人が宇宙に行くってことが大事なんですよね」と、巧みにまとめたので、インタビューはよいものになり、無事終了したようだった。
「普通」と言われてしまったけれど、向井さんご自身がスペースシャトルから初めて地球を見た時の感想は素晴らしかった。「地球は美しく、聡明で、誇り高く気品があるが、限りなく謙虚で慎み深く見える」。私の記憶は正確ではないが、大体こんな言葉が、テレビで中継されたと思う。それは天体の上に、理想の女性像を見た人の言葉だった。地球は本当に美しかったのだろう。
慎ましい人とは、自分をよく知り、世間を知ったことで美しくなった人のことだと思われる。向井さんは若い頃から大変優秀な方だったから、普通の人などと言われたのは初めてだったろうが、謙虚に慎み深く受け止めておられた。向井さんが宇宙空間から見たのは、実はシャトルの窓に映った自分自身だったようにも思われる。