母が存命の頃、五島へ帰ると必ずいわれることがあった。
「若かうちに、よか思い出ばびっしゃり(沢山)作っとけよ。そしたら、年ばとって寝ついた時に、ふとんの中でさ、そげんなよか思い出ばひとつひとつ思い出したらさ、寂しゅうなかけんね」。
若いときにはそんなに心にひびかなかったのに、70歳を過ぎた頃より、その言葉が深くよみがえってくるようになった。
幼き日の父母との語らい、「けいこ部屋」と呼んでいた教会学校での、教え方さまのひとつひとつの言葉、松下神父様との折々の触れ合い・・・。
大阪へやって来てからの友人たちとの語らい、結婚したあとの今井の両親との日常の触れ合い・・・。
数えればきりがないほどのよき思い出があるのは嬉しいことである。
私たちは将来の自分のために、平たくいえば老後の自分のために物質的な貯えには精を出すが、心の貯えには鈍感な人が多い。
しかし、自分が実際に年を重ねてみると、心の貯えがいかに大事かということがわかる。
また、教え方さまだった梅木のおばちゃんにいわれた言葉も今後の私を助けてくれるものと思う。
「美沙ちゃん、おばさんはもう、足もきかんごとなって、若か時のような動きは出来んばってん、まだまだ出来ることがようけあるとよ。出来んごとなったことはもう忘れてさ、今、出来ることばひとつひとつ指ば折って数えてみたら、十本の指では足らんとよ。ああ、わたしにもまだ出来ることがあるとわかると、ほっこりするとよ」
心の和みは自分しだい。自分が自分の心を和ませるよう、若い時から心がけたいと若い人たちに伝えたい。