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親と子ども

小林 陽子

今日の心の糧イメージ

 わたしたちは誰しも、父あり母あってこの世に生を受けています。たったひとり自力で生まれてきたひとなんていませんね。

 それぞれわたしたちに備わっている個性や特性も、両親からのDNAを受け継いでいるのでしょう。ただ、それを磨きあげ、成長させていかなくてはならないのですが。

 とはいえ、いくつになっても親は親、子どもは子ども。

 わたしなどは、100歳を超える母を訪ねるといまだに、「手を洗ったか?」「ちゃんとうがいした?」とやかましく言われています。

 N君は、日本でアルバイトをしてお金を貯めては、インドのアシュラム(瞑想道場)で「ヴィパサナ」という瞑想修行をしています。そこには世界中から「わたしは何のために生きるのか」「わたしとは何もの?」などと『道』を求める若者たちが集まってきているのです。

 N君もそのひとり。

 これが彼の選んだ生きる道、なのですね。

「ご両親は心配なさっていませんか」と言えば、「いやー、今さら立身出世なんか期待してないからね、北海道の実家にも何年も帰ってないなあ」とあっさり。

 まいにち機嫌よくおいしくごはんを食べていればそれでよし、と彼のおかあさんは言われるそうです。ほお~。

 「それにきわめつきがあるよ」「なに?」「悪いことしないのよ、っていうの」

 うーん。なんとも腑に落ちますね、この台詞。

 以来、わたしも、食前の祈りのことばに、遠くに住む子供たちの名前をひとりひとり呼び上げ、「機嫌よく、おいしくごはんをいただいていますように」とつけ加えるのが習慣になりました。