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親と子ども

村田 佳代子

今日の心の糧イメージ

 「三つ子の魂百まで」「子は親の鏡」など、子育て中の親と子の関係については古より言い慣わされてきた言葉があります。

 私は結婚後、児童の美術教育に携わることになり、児童心理学と発達心理学のゼミで一年間学びました。当時の教授はこれらの諺は真理を突いていると常々実例を挙げて話されました。動物は生後数時間で立ち、自ら動くが、人間が立って独り歩きをするまでには1年近い歳月が必要で、心の発達が伴うことを強調されました。そして2歳から3歳に差し掛かる頃が人格の根源が形成される大切な時期だというのです。

 両親からかけられる言葉、抱きしめたり手を繋ぐ動作の中で家族ならではの絆が育つ、この大切な時期に充分両親からの愛情を注がれた子供は、成長過程で多少反抗期などがあっても基本的に円満に成長していくと説かれました。そしてこの期間に、両親も未熟な新米の親から社会人として成長を遂げることが可能であり、独身者とは異なる人生における恵みだと言われました。独身を貫かれていた教授の言葉に戸惑いを覚えましたが、「皆さんが母親になれたら私の講義を思い出し だまされたと思って私の育児法を実践してみてください」とおっしゃるので、妊娠中だった私は「やってみよう」と決意したのでした。

 私は仕事を持ち続けましたが、夫や実家の母の協力もあり、無事に子供たちは思春期に到達し進路を模索するまでになり、教授に報告しました。間もなく教授は「有難う 私は正しかった」と言葉を残され、臨終洗礼で帰天なさいました。

 家庭を持っても、家族の絆より自分を優先する親世代の風潮がある中、私には今もなお、「子は親の鏡」です。