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その時『わたし』は

服部 剛

今日の心の糧イメージ

 昨年の夏の台風は各地に甚大な被害をもたらしました。私たち家族も初めて避難を経験しました。今もその時を思い出すと、緊張感のある場面が記憶に甦ります。

 雨嵐が強くなるたびにスマートフォンからサイレンが鳴り、画面を見ると避難の発令が出ていました。5つのレベルの中のレベル3だったため避難すべきか迷いました。しばらくすると再びサイレンが鳴り、私は外に出ました。強風の中で傘の柄を握り、すぐそばの川を見に行くと、水位が上がり始めていました。〈これは危ないかもしれない〉と感じた私は地元の小学校を訪ね、川から離れた避難場所を確認しました。その後、近隣の家を訪ねると、独り暮らしでご高齢の女性は「私は独りだから一緒に連れていってください!」と不安そうに訴えました。

 自宅に戻り、知的障がいをもつ息子と3人でどう避難するかを妻に相談すると、「同じ特別支援学校のママは、子供が大声を出して歩き回り迷惑をかけるから避難所には行きたくても行けない、と言っていたけれども...」と言うので、私は「障がいがあるから避難しないの? 命を守る選択をすべきだよ」と伝えました。妻は私の説得を受け入れ、避難する準備を始めました。同時に独り暮らしをする方々を我が家の車で避難所まで送りました。いよいよ私たち家族が避難所へ行こうとしたその時、心配した親戚から連絡が入り、私たちはそのお宅にお世話になることになりました。

 結果的に近所の川は氾濫しませんでしたが、今回のことで緊急時に近所の方々と声をかけあうことの大切さを実感しました。そして、集団の中で過ごせない人々が安心して避難できるスペースがどこの避難所にもあるといいのだが、と考えさせられました。