息吹ときいて、まっ先に思い浮かべるのが、聖女リタの"ぶどうの樹"である。
リタは結婚し、子どもも生まれ、普通の結婚生活を送り、夫や子どもを天国へ送り出したあと修道女になったまれな女性である。
リタは字が読めなかったので、修道院の規則をすべて覚えるのには時間がかかった。そのため数々の失敗もした。
修道院長は厳しく、すべての修道女の前で叱咤した。修道女たちも院長にならえで、リタにきつくあたった。
そんなある日、修道院長が庭の隅の壁際にある古いぶどうの樹に、毎朝、毎晩、水をやるようにとリタに命じた。
その樹はすでに枯れてしまっていて、水をやっても無駄だと思われた。しかし、リタは上長の命令ゆえ、従順に従った。
ただひたすら、毎朝、毎晩、欠かすことなく水をやり続けた。
1年も経ったある日、枯枝に小さな黄緑の芽が生まれた。
リタの従順さに心を打たれた神さまが、ぶどうの樹に息吹を与えたのであった。
その時のリタの喜びはいかほどであっただろうか。
院長をはじめ、リタの単純さを陰で笑っていた修道女たちもどんなに驚いたことだろう。
院長はぶどうの樹の芽を見て、リタの従順と謙遜を認めることとなった。
このぶどうの樹はイタリアのカスシアの修道院に今も見ることが出来るそうである。
リタは1381年生まれだから、実に600年以上もこのみどりの樹は生きているのである。
従順という一念を神さまは愛されたのである。