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息吹

三宮 麻由子

今日の心の糧イメージ

「はるです。くうきは ぱりりと つめたいけれど

 やぶのほうから なにやら こえが きこえてきます。」

 これは、私が書いた絵本「ウグイス ホケキョ」の冒頭です。

 その春初めて囀るウグイスが、お父さんの囀りを思い出し、ほかの鳥や先輩ウグイスの声を聞きながら練習を重ね、最後に大きな声で「ホーホケキョ」と鳴けるというお話です。

 本州では、ウグイスが囀りはじめるころ、厳しい冬の空気の底がどこか暖かくなってきます。シジュウカラは1月末ごろから早々と囀りモードになり、雀の「浮かれ歌」にはチユチユチユという求愛の声が混じってきます。西洋では、立春後間もない時期に当たるバレンタインデーに小鳥が囀り出すと言われています。

 小鳥の囀りは人間の音楽と違い、子孫繁栄という重大な任務の一つです。が、実は彼らも、物まねやほかの鳥の鳴き声の拾い込みなどで「音楽」を楽しんでもいます。彼らは囀りを通して、自分の生命を精一杯楽しみ、活用しているのです。

 北半球で生命の息吹が本格稼動するこの時期、南半球は秋になります。それまで漲っていた生命の息吹は、休止の冬に向かいます。季節は地球の北と南で反対の動きをします。これは、地球全体の息吹の活動であると、私は思います。

 2月から4月は、キリストの受難から復活に向かう季節でもあります。命の息吹が生と死という極限の世界で動きを示す時期といえるでしょう。

 春と秋が南北の半球ですれ違う現象は7月から9月ごろにも起きますが、キリストの生死と復活という、命を巡る特殊な出来事が起きたのは、まさにいまの時期です。神様はこの時期、あらためて命というものに目を向けるよう、人類にメッセージを送られたのかもしれません。

    出典・『ウグイス ホケキョ』

   (「ちいさなかがくのとも」2010年3月号)

    三宮麻由子 文 飯野和好 絵

    福音館書店