マザー・テレサと出会った多くの人が、「わたしはマザーから世界で一番愛されている」と感じた。たった5分、立ち話をしただけの人でさえそうだ。マザーはどうやって、それほどの愛を相手に伝えたのだろう。
まず印象に残るのが、マザーの笑顔だ。苦しみを抱えて訪ねて来る人がいると、マザーはどんなに忙しいときでも嫌な顔一つせず、満面の笑みで出迎えた。「あなたに会えて本当にうれしい」という気持ちがはっきり感じられる、心からの笑顔だった。その笑顔が、理屈抜きで相手に愛を伝えた。「わたしに会ったことを、こんなにも喜んでくれる人がいる」という事実が、出会う人たちの心に、強い愛の印象を刻んだのだ。
マザーは、訪ねてきた人の話を隅々まで聞こうとする人でもあった。せっかく話をしても、相手が途中で時計を見たり、スマホをいじり始めたりすれば、「ああ、わたしは歓迎されていないんだ」という印象を受けるだろう。マザーはその逆だった。相手が話しているとき、マザーはすべてを脇に置き、ただその話を聞くことだけに集中した。「あなたのことを、隅々まで知りたい」、そんな気持ちが伝わって来る聞き方だった。マザーはほとんど口を開かなかったが、話を終えるまでには、「あなたは本当に大切な存在だ」というメッセージが相手にしっかりと伝わっていた。ほとんど口を開かず、沈黙のうちに愛を語る。それがマザー・テレサ流だった。
たとえわずかな時間でも、「わたしは本当に大切にされた」という印象を相手に与えたマザーは、もてなしの達人だったと言っていいだろう。相手との出会いを喜ぶ心からの笑顔。相手に関心を持ち、相手の話を隅々まで聞こうとする態度をマザーに学びたい。