歓迎する、という言葉を聞いた時に、私には忘れられない貴重な思い出があります。
今はもう44歳になった長男が生まれた時のこと、アメリカに住んでおられた、絵本作家の八島太郎さんがお祝いをくださったのです。たぶん、長男と一緒に写した写真をクリスマスカードにお送りしたからだったかと思いますが、長男に宛てて、ご自分の絵を使ったカードに大きく一言、「歓迎」と書いてくださったのです。そこでは、すでに80歳ぐらいだった老画家が、ご自分と、生まれたばかりの幼子とを同じ人類の仲間だと表明しているように思いました。それは人類に対して、本当に大切な暖かいおもいやりだと思って、感激したことが忘れられません。
私たちは、知人や身内に赤ちゃんが生まれた時、たいていはその親になった若夫婦に宛てて、おめでとう、というのが常だと思います。でも八島さんは違いました。
八島さんは、太平洋戦争の時に、この戦争は間違っていると思い、日本を脱出し、アメリカに渡り、特に沖縄戦の時などには、地上の日本兵に対して、無駄な死を避けて、投降するようにというビラを作って米軍に協力したのだそうです。それはどれほどの痛みを伴うことだったでしょうか。それでも、彼はそうせざるをえなかったのです。
やがて、彼はアメリカで、鹿児島での自分の子供時代の思い出をもとに「からす太郎」という絵本を出版しました。それは、体も小さく、勉強もみんなについていかれなくて、みんなに「ちび」と呼ばれていた少年の話です。でも、その子は他の子供が気がつかないたくさんのことを知っていました、畑や、からすのことなど、自然と友達でした。そして、その絵本は、長い間アメリカのお母さんたちの大切な絵本になりました。