▲をクリックすると音声で聞こえます。

歓迎する

新井 紀子

今日の心の糧イメージ

 6月の夕暮れ時でした。

 函館郊外大沼湖畔にある我が家のインターフォンが突然なりました。Mさんでした。

 「昨日、こちらに来たのですが、一緒に来た犬のシンちゃんがいなくなってしまったの。見かけたら、知らせてくださいね。お願いします」

 シンちゃんはMさんが動物レスキューから引き取った白い小型犬です。毎年、大沼にやってくるシンちゃんと私は、顔なじみで大の仲良しでした。翌朝、5時頃のことでした。私はぼんやりと窓の外を眺めていました。すると、村の道路を一匹の白い犬がすたすたと歩いています。よく見ると、飼い主の姿がありません。

 〈あっ、シンちゃんだ〉私は大急ぎで外に出ると、過ぎ去った方に向かって声を限りに叫びました。「シンちゃん。シンちゃ~ん」近所中を捜し回ったのですが、見つかりません。Mさんに電話をして、シンちゃんを見つけたのだけど、見失ってしまったことを伝えました。

 朝食後、私はシンちゃんを捜しに出かけました。ゆっくり車を走らせながら、窓から名前を呼びました。すると、別荘に住む人たちが何人も捜しに出ていることが分かりました。犬が迷子になったことを知った人々が外に出て捜しているのです。

 私は一度家に戻りました。すると駐在のお巡りさんがやってきました。私は今朝シンちゃんを見つけたときの様子を聞かれました。Mさんは犬が行方不明になったことを警察に届けたようです。

 昼前のことでした。「見つかったの!」Mさんからの電話。

 「お巡りさんがね、見つけてくれたの。登山道路のはずれで。近くに貂がいたんですって。危ないところだったわ」

 迷子のシンちゃんを別荘地帯の人々は総出で捜し回ってくれて、大歓迎の一日となりました。