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わたしが抱く平和

黒岩 英臣

今日の心の糧イメージ

 つい先日、私が指揮をして、息子がピアノコンチェルトのソリストを務めるという、めったに無いコンサートが実現しました。私も妻も親ですから、これは実に嬉しい音楽会でした。

 リハーサルが終わって本番を待つ間、楽屋で休んでいた私達両親のところへ息子がやって来て、こんなことを話しました。息子の妻ミサちゃんが、体調が悪いにも拘わらず、今、新幹線でこちらへ向かっていること、おまけに、飼っている犬が瀕死の状態なので、終わったら挨拶もそこそこにすぐ東京へ帰らなければならない等々。

 これを聞いた妻は息子にこう言いました。「それは大変。じゃ、ここでぐずぐずさせないで、すぐ追い返しなさい」。

 そうしたら、息子は違う意味に採ったらしく、「何てことを言うの、一生懸命来ようとしているのに」と、少し怒ったようでした。これを見て、私は息子にこう言いました。

 「お母さんの気持ちはね、ミサちゃんの具合が悪いのと、ワンちゃんの世話をするために、こちら側のことには気を遣わずに、すぐに帰らせてあげなさいという事なんだよ」と。

 息子が納得して去った後、私が妻にあの言い方はよくなかったと指摘したところ、珍しく、妻は私に反発したのです。「私はそんなことは言っていない」と・・。今、言っていたことを、こんな風に否定されて、私は開いた口が塞がらない思いでした。

 「前にもこんなことがあったわよね」と妻が言い出しました。これは、相当な危険を孕んでいると私は覚悟しました。

 事実、私には、私達には、まだまだヘリ下って反省すべき余地がありそうです。幸い、妻も深く考え、思い直してくれたようで、主の平和は数日で私達の間に戻り、私はこの上なく嬉しいのです。