「青春は美し」とは、ドイツの作家ヘッセの短編小説。タイトル通り、青春期の青年の心に映る故郷の自然や人々が美しく描かれている。自我が確立するまでの悩みや葛藤は、百年前のこの青年も現代の青年も、根本はあまり変わらないかもしれない。異なるのは、現代では、社会的な成熟を避け、青年期という時間を引き伸ばして、長くそこに逗まる傾向が見える点だ。「青春は長し」になっているのである。
この長い春は、体力も感性も豊かに恵まれた時期だ。現代の青年たちの洗練されたセンスや表現、人間関係の巧みさには、しばしば感心させられる。
或るお宅でのパーテイで、20歳過ぎの女性たちと親しく話したことがあった。トマト料理の一皿を勧められた時、一人の女性が微笑みながら「大丈夫です」と言った。実は、彼女はトマトが嫌いで食べることができなかったのである。だが、その言葉から『勧めて下さってありがとうございます。私は空腹ではないので大丈夫。ご心配いりません。』と『お料理が皆とても美味しかったので、お腹が一杯になったのです。このトマト料理を嫌がっているわけではありません。』というニュアンスを、彼女が優しく伝えようとしているのがわかった。伝統的な作法とはまた違う、若い世代の気遣いの表現なのだと感じられた。
青春とは、繊細で柔らかな感性が住む国に思われる。私たちは皆、その国を通過して来たのだ。人は一生をかけて、進んで行かなければならない。青年であった時、悩んだ末に発見した自分自身は、今どんな姿だろうか。祈りながら、自らを問い直しながら、歩いていきたいと思う。