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わたしの今の役割

堀 妙子

今日の心の糧イメージ

 わたしはバスに乗るときのマナーがあまり良くなかったので、遅すぎる改心だが、バスに乗るときには「おはようございます。よろしくお願いします」と挨拶し、降りるときには「ありがとうございました」と言うことにしている。

 今頃になって気づいたことだが、バスに乗る人には、電車の駅の複雑な構内が苦手だったり、階段の上り下りが大変だという、体の弱い方が多く利用するような気がする。お年を召した方も席に座ることができれば、電車よりもバスのほうが楽だと思う。そんな乗客を乗せている運転手さんの気苦労は並大抵のものではないだろう。停留所での時間調整、発車しようとすると急に赤信号になって、車内の乗客がイライラしたりすれば、運転手さんのせいではないのに「早く発車させろ」というような無言の圧力がかかる。

 バスでの挨拶を始めてからもう5~6年になる。

 ある日、とても素敵なことが起こった。バスが停留所に止まったとき、中学生ぐらいの少女が元気よく「ありがとうございました!」と言って降りて行ったのだ。バスの運転手さんは弾んだ声で「ありがとう」と答えていた。また、数日過ぎて、バスに乗り、降りるときに、お年を召した女性が「ありがとう」と言って降りた。バスの運転手さんは驚いたように「お気をつけて」と声をかけたのだ。

 運転手さんに感謝の言葉をかければ、運転手さんも嬉しそうだ。それに一気に車内の雰囲気がなごむ。

 わたしの今の役割は、バスばかりではなく電車の場合でも、乗ったらすぐにロザリオの祈りを始める。運命共同体だからだ。そして偶然乗り合わせた人びとの今、そしてこれからの幸せを願うことにしている。