母のぬくもり

松浦 信行 神父

今日の心の糧イメージ

 ある幼稚園のお母さんが、話してくれました。

 娘さんはお母さんが大好きで、いつもにこにことくっついていましたが、ある日、お母さんは幼稚園から、娘さんが動作が遅い同級生をいじめたという報告を受けました。それでお母さんは、それは悪質ないじめだと言って、娘さんをしかりました。

 娘さんは始め唖然としていましたが、すぐに大声で泣き出し、「お母さんは、私の味方ではなかったの?」と訴えたのです。それで、「お母さんは味方だから、叱るのよ。いい子になって欲しいから。」と抱きしめたのだそうです。

 私も母のそのような姿を見たことがあります。兄弟4人と母とで、一緒におやつを食べていたとき、私も含めた上の3人に、母はコーヒーを入れてくれました。それを見た2歳の弟が、「僕も欲しい。」とだだをこね始めました。

 母は優しい性格なので、「冷めてから飲むのよ」と言って、弟のテーブルの前に熱いコーヒーを置きました。弟は喜んで、テーブルを手でたたき始めました。その手が、コーヒー茶碗に引っかかり、弟は熱いコーヒーを頭からかぶってしまったのです。「わーん」と弟が泣き叫びました。

 なんでもゆっくりする母が、そのときばかりは咄嗟に弟を抱きかかえて台所に行き、弟の頭に水をかけるや、「医者に行ってくる」と言って、家を飛び出していったのです。

 そのときの母の、なんとしてもこの子を助けなければ、という真剣な姿を見て、私たち兄弟は皆、そのように育てられたのだと、有り難い気持ちと感謝で胸がいっぱいになりました。

 いのちの「正義の味方」が現れた瞬間でした。

母のぬくもり

岡野 絵里子

今日の心の糧イメージ

 小さな枕を見た。友人の家を訪ねた時のこと。幼稚園に通うようになった娘さんのベッドに、ふっくらと可愛い枕が置かれていたのである。聞けば、この枕は友人の手作り。小柄な娘さんにちょうどよい子ども用枕を探したけれど、気に入ったものが見つからなかったので、自分で作ってしまったということだった。手芸好きの友人らしく、フリルもリボンもついていて、楽しそうに一生懸命縫っている彼女の姿が目に浮かび、母ならではの、優しい手の仕事なのだと思われた。

 母親の優しい手のぬくもり。それは子どもが毎日帰って行く故郷なのだろう。生まれた赤ちゃんを最初に抱くのは母親だ。それから母乳を飲ませ、おむつを替え、抱っこする日々が始まる。母と子どもが一つのぬくもりの中にいる、ふれあいの時期である。子どもが成長するに従って、抱っこはやがて、手をつなぐことに変わり、授乳は料理に変わっていく。身体を密着させるようなふれあいは少なくなっていくが、母の優しい手の仕事は続く。子どもが悲しい時、不安な時、背中を優しくなでてくれるのは、母の手だ。手のぬくもりは、「大丈夫、あなたは一人ではありませんよ」と言ってくれているようだ。子どもは愛されていることを感じて、初めて安心する。人は、孤独の中では、泣き止むことができないのだ。

 友人の娘さんは、毎晩安心して、ぐっすり眠れるのではないかと私は思った。母親が寝かしつけに来てくれて、本を読んでくれるかもしれない。何より暖かい布団と、母の優しいぬくもりと、両方に包まれているのである。


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