母のぬくもり

古川 利雅 神父

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 私たちは多くの人の愛に包まれ、大切にされ育ってきました。とりわけお母さんの愛に包まれて大きくなりました。お母さんのお腹の中にいる時から、愛され、また守られてきたのですね。生まれてからもお母さんは、大切な私たち一人一人を様々なことで気遣って下さいましたね。

 病気の時に寄り添って、寝ずに看病してくれたこと。自転車の後ろに乗せ、病院に連れて行ってくれたこと。学校に持っていく毎日のお弁当、いつも綺麗に丁寧に心を込めて作ってくれたこと。小さい頃、私たちが身につけるもの、着る洋服や履く靴、被る帽子などなど。今、あらためて思い返してみると、様々なこと、あらゆることに気遣ってくれた母の姿、その心を感じ、そしてそれら一つ一つに母のぬくもりを感じます。

 思い出された一つ一つの出来事の中の「大切なもの」は、もしかすると私たちの手元には残っていないかも知れません。取っておけば良かったと感じておられるかも知れませんね。もちろん品物としては残っていないかも知れませんが、その大切な出来事、お母さんの心、母のぬくもりは消えることなく、私たちの心のうちに残っているのではないでしょうか。

 皆さんにはお母さんとの想い出、ぬくもりにどんなものがあるでしょうか。走馬燈の様に様々な事柄が思い出されるかも知れませんね。それは大切な思い出であり、一人一人の宝物。一つ一つ思い巡らしながら、お母さんの存在を想い、そのぬくもりをあらためて感じながら、今日という新たな一日を歩むことができます様に。お母さんの私たちへの想い、ぬくもりは、私たちの心からいつまでも消えること、いつまでもなくなることはありません。いつまでもどうか大切に。

母のぬくもり

服部 剛

今日の心の糧イメージ

 今、私の机には100歳の詩人・柴田トヨさんの、多くの人に愛された詩集が置かれています。ページを開くと、長い生涯を歩んだトヨさんの写真があり、笑顔の後ろから光が射しています。

 初めてお会いしたのは6年前ーーその日はトヨさんの旅立ちの日でした。その数日前、亡くなられたこと、葬儀の場所を知り、〈手を合わせに伺いたい〉と直感しました。それはすなわちトヨさんに会いに行くということで、妻にその想いを伝えると、「確かにそうね」と返してくれた声に押され、私は栃木への列車に乗りました。

 お葬式は神道の形式で執り行われ、その厳かな静けさが心に残りました。私はクリスチャンではありますが、神社や仏閣を訪れると、〈自分は日本人なのだ〉と実感します。トヨさんのお式で宮司さんがお榊を振る様は、トヨさんと対話しているようでした。私はご子息の健一さんにお声を掛け、挨拶の意味も込めて自分の詩集を渡しました。健一さんも詩人であり、詩を介してのご縁を感じたからでした。

 数日後、健一さんから連絡があり、私の詩集を読み、感動したと、涙ながらに伝えてくださいました。以来、私と健一さんは詩を通じて語らう友となりました。

 先日、電話をしてトヨさんの思い出を伺うと、「90歳を過ぎて腰を痛めたおっかさんが、好きだった日本舞踊を踊れなくなったので、〈詩でも書いてみないかい?〉と言うと、〈あなたが教えてくれるなら、書いてみる〉と応じてくれた時が嬉しかったなぁ...」と、懐かしそうに話してくれました。その言葉に私はトヨさんと健一さんの絆を想いました。

 トヨさんの詩集を開くと、今も温かな声が聞こえます。

 「元気だせ 元気だせ / 鳥が啼いてるよ / 聞こえるか 健一」


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