▲をクリックすると音声で聞こえます。

母の雑煮

松浦 信行 神父

今日の心の糧イメージ

 だいぶ前のことだと思います。「寂しい女性は太る、忙しい男性は太る。」という新聞の見出しがありました。私はそれにびっくりして、その記事をじっくり読んだ記憶があります。人間の代償作用を描いたもので、赤ちゃんが、おしめを濡らしたり、体がかゆかったり、不安になったりしたとき、とりあえずミルクを飲む行為で安心するといったことの大人版でした。食べるという安心感が、人が持っている困難さを乗り越えていく力になるというのです。

 食べると言うことは結構、人間に影響するようです。

 例えばコーヒーを仕事の合間に飲むといった行為は、ドラマや小説が醸し出す、ゆったりと時が流れていくという雰囲気を感じるわけです。

ところで私にもそんな、ホッとするときがあります。実家に帰ったときに、母におねだりする母特製の雑煮をいただくときです。

 我が家の雑煮は、醤油仕立てで、鰹節がたっぷり入り、鰹節は引き上げずに常に雑煮の中にあります。野菜には、小松菜かもち菜、おもちは丸餅でも角餅でもどっちでもよく、焼かずにお鍋に入れます。もちろん先日まで住んでいた高松のように、あんこは入っていません。そして、そのおもちがとろけて、姿・形がなくなるまで煮込みます。このシンプルな味を、1年中私が食べたくなるので、我が家にはおもちが必ず台所にあるのです。

 その雑煮を食べるとき、いろいろな我が家の情景が思い出されます。正月に全員が揃うことがなくなったこの頃でも、みんなで一緒に「おいしいおいしい」といいながら食べていた雰囲気や、笑いあっていた姿を思い出すのです。

 それが、私の頑張る力となっています。