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母のぬくもり

岡野 絵里子

今日の心の糧イメージ

 小さな枕を見た。友人の家を訪ねた時のこと。幼稚園に通うようになった娘さんのベッドに、ふっくらと可愛い枕が置かれていたのである。聞けば、この枕は友人の手作り。小柄な娘さんにちょうどよい子ども用枕を探したけれど、気に入ったものが見つからなかったので、自分で作ってしまったということだった。手芸好きの友人らしく、フリルもリボンもついていて、楽しそうに一生懸命縫っている彼女の姿が目に浮かび、母ならではの、優しい手の仕事なのだと思われた。

 母親の優しい手のぬくもり。それは子どもが毎日帰って行く故郷なのだろう。生まれた赤ちゃんを最初に抱くのは母親だ。それから母乳を飲ませ、おむつを替え、抱っこする日々が始まる。母と子どもが一つのぬくもりの中にいる、ふれあいの時期である。子どもが成長するに従って、抱っこはやがて、手をつなぐことに変わり、授乳は料理に変わっていく。身体を密着させるようなふれあいは少なくなっていくが、母の優しい手の仕事は続く。子どもが悲しい時、不安な時、背中を優しくなでてくれるのは、母の手だ。手のぬくもりは、「大丈夫、あなたは一人ではありませんよ」と言ってくれているようだ。子どもは愛されていることを感じて、初めて安心する。人は、孤独の中では、泣き止むことができないのだ。

 友人の娘さんは、毎晩安心して、ぐっすり眠れるのではないかと私は思った。母親が寝かしつけに来てくれて、本を読んでくれるかもしれない。何より暖かい布団と、母の優しいぬくもりと、両方に包まれているのである。