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時のしるし

服部 剛

今日の心の糧イメージ

 私の母は優しい性格で、子どもの頃の私が困っていると、よく手を差し伸べてくれたものでした。日々の暮らしで、私が思いやりを持って人に接することができたとき、〈母に似たのかな?〉と心の中で思ったりします。反して、母の優しさに甘えることが多かったため、大人になってからも頼る気持ちが生まれ、問題が発生したときに自分で解決することが苦手な面があるのも事実です。

 「母親と似ている人と結婚する男性は多い」という話を聞いたことがあります。私にも当てはまるな、と最近つくづく思います。生まれも育ちも異なる2人がひとつ屋根の下で新たな生活を始めるのですから、お互いの性格を理解し合い、夫婦としての絆が育まれるのには、苦楽を共にする年月が必要です。それと同時に、どうしても「相性」というものがあり、「母親の性格に似ている妻」は良い相性のポイントを、元より有しているのかもしれません。

 昨年のある晩のこと。眠っていた妻が自らの肩に激痛を感じて飛び起きました。我が家のひとり息子は7歳になるダウン症児で、夫婦でかわいがっていますが、いまだ食事もトイレも介助が必要で、息子を担ぐことも多い妻の負担は想像を越えるものがあります。そんな妻の肩が痛くては息子を育てるのにもひと騒動で、私も頭をかかえてしまいました。

 翌朝、妻は整形外科に駆け込み、注射と薬の処方を受けて、痛みは何とかコントロールすることができましたが、治るには当分かかると言われました。これまで妻を頼ることの多かった私ですが、これまで以上に妻を手伝わねばと反省しきり。手を差し伸べてもらうより、手を差し出す自分でいなければ、と今回の出来事をしるしと思い、肝に銘じています。