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時のしるし

堀 妙子

今日の心の糧イメージ

 教皇フランシスコはロザリオの祈りの終わりに、2つの祈りを唱えるように勧めている。「聖母マリアへの祈り」と「大天使聖ミカエルへの祈り」である。以来、私はこの地球上で起こっていることに対して以前にも増して危機感を抱くようになった。教皇の願いは「悪がはびこらないように、ためらいなく闘う決意を固める」というものだ。

 ここ数年、マスメディアが報じるニュースを見たり読んだりしていると、どうでもいいことが、繰り返し取り上げられているとしか思えない時がある。まるで真実を覆い隠すかのように。

 聖書の口語訳で知られるバルバロ神父が編集長をしていた月刊誌を読んで、驚いたことがある。それは1956年10月23日に起こったハンガリー動乱の記事を、11月初旬に刊行される12月号の月刊誌ですぐに取り上げて、1月号では8ページを割いている。ハンガリーからの情報を集め、日本の新聞も読み、的確な分析をしていた。神の不在を説く圧制者に対して、ハンガリーの市民の心のともしびは消えないことを示し、闇はキリストの光に勝てないことをペンで書き切っていた。

 バルバロ神父の晩年、修道院にある書斎を取材のために訪れたことがある。老いが迫り、思うように仕事ができずに、牢獄に閉じ込められているかのようだった。ゆめまぼろしのごとく過ぎ去る月日を想い、世におもねるような書籍を見ては憂いていた。

 人びとを、真実から目をそらせるように仕向ける悪の力に翻弄されることのない魂だけが「時のしるし」を見分けることができる。未来に生きる人びとには、少しでもよい世界に住んでもらいたいと、ロザリオを唱えながら、皆で連帯してできることを模索している。