昔、或る年長の詩人から、1枚のはがきを頂いた時のことを憶えている。はがきには、御自分が高齢になられた感慨と私の詩を御覧になったこと、そして最後に、「このような詩が読めるなら、生きていたいと思いました」と書かれていた。私は驚き、恐縮してしまった。自分などの詩が、本当に誰かの生きる希望になり、生きる支えになったのだろうか。そのままを真に受けることは出来なかったが、それでも「生きていたいと思いました」という言葉は、温かい雨のように私の中に降り注ぎ、滲みていった。
私は生まれ変わったように詩を書き始めた。やはり、その言葉は大きな励ましと、支えになったのである。つらい時には、その言葉を思い出し、わざわざはがきを下さった先輩の優しさを思い出した。
当時は若く未熟で、高齢になった人の言葉の本当の重さは、まだ分かっていなかっただろう。ただ、誰かの長い人生で、一日の喜びとなるような言葉の仕事をしたいと思っていた。そして、その仕事をすることで、書き手も支えられ、生きていけるのだとも思っていた。だがそれがとても難しい仕事だと悟るのは、ずっと先のことであった。